雪色の風が吹いて 横顔を通り過ぎ
彼女の長い髪がきれいに踊って
ぼくの肩をくすぐっていった
灰色の空は 少しも眩しくなんかないのに
近い距離にある輪郭がぼやけて霞んだ
伝えたいことは伝えなきゃならないことで
けれど伝えられないことだった
冷えた空気が肺を満たして
それでも心は暖かだった
「ありがとう」
小さな小さな呟きは
彼女の歌に隠してしまえ
「さようなら」
そっと飲み込んだ言葉は
終わりが来ても言わずにいよう
歌声が空気にとけて
明日にはきっと 遠いどこかへ届くだろう
ひらりひらりと舞い散る花弁
気まぐれに 右へ左へ
歌うように 踊るように
無邪気なきみの笑顔のように
気まぐれなきみのこころのように
せめてひとひら 捉まえようと
出来るだけ 遠くへ伸ばした両の腕
その先で 握り締めた掌は
けれど 空(くう)を掴むだけ
見上げれば
ただ
舞い踊るばかりの花の雪
蜂蜜の罠に嵌ったら
もう沈んでいくだけだ
呼吸もなにも絡みとられて
もう浮上するなんて、不可能だ
喉にはりつくセツナさで
ときどきは我にかえるのだけど
視界の利かない琥珀の檻の
甘ったるさに思考も溶ける
身動き出来ずに完全降伏
苦し紛れの絶対幸福
恋に敵うものなんて、無いんだ
ナマエモシラヌ
マダミヌアナタ
遠く 近く 甘い声
ゆらゆら揺れる月の道
マダミヌアナタ
イツイツアエル?
強く 永く 願う声
さらさら運べ時の風
必要なのは言葉ではないのです
此処に欲しいものは
私が信じられるものは
言葉などではなく
あなたの、確かな体温だけ
その大きな掌が
広い胸が
直に伝えてくれる、熱
ただそれだけ
嗚呼、それなのに
今こうしてあなたの腕の中で
私は何を待っているのでしょう
この温もりさえあれば、と
そう思って
そう思いながら一方で
あなたの声で紡がれる
自分の名前が聞きたいと
尊い囁きが欲しいと
そう願っているのです
嗚呼、どうして
私はいつのまに
こんなに贅沢になってしまったのでしょう
嗚呼、どこまで
私は手にすれば
満たされていると感じることが出来るのでしょう
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