この場所から
さっきすれ違ったあの人は
いつかもどこかで見た人だ
見覚えの無い景色の中で
記憶の底を探り 埋もれているはずの横顔を探す
中途半端に使い捨てたものばかりが
かたちも無くしているくせに
頭の中で 邪魔をする
握った指の隙間から 硝子の粒が零れていく
さらさら 聴こえない音で
きらきら 見えない輝きで
どこへも行けないから
このままで ずっと
わたしはここにいるだけです
さっきすれ違ったあの人を
以前はわたしが追い越した
先を急いで ひたすら急いで
うずくまっていたあの人を 置き去りにした
荷物なんて ひとつ残らずなくしてしまった
大事にしていた気がするけれど
多分 落としたんだ
きっと 捨てたんだ
荷物の中身も思い出せないのに
探しになんて 戻れない
戻る場所さえわからないから
わたしはここにいるだけです
森の声が聴こえた
波の声が聴こえた
ここがどこかなんて
多分 それほど大事じゃない
足元に積もった硝子の粒が
さらさら 風に吹かれて
きらきら 陽光(ひかり)を浴びて
時々は美しいこの場所を
嫌いなわけではないのです
さっきすれ違ったあの人を
前にも見たと思ったのなら
いつか ここではないどこかに
きっと わたしはいたんだろう
あの青い屋根の家に住む人に 会いに行きたい
あの坂道を登りきって 向こう側の景色を見てみたい
いつのまにか左手に 革の袋を持っていた
荷物はきっと増えていく
これから 増えていくんだ
わたしはどこへも行けないなんて どうして思っていたんだろう
どかーんと落ちて真っ白になっても、そこに
本当になんにも残ってないなんてことは無いと思う。
見えなくなっているだけなのです。
歩き出すキッカケも其処に。
背景画像はNOINさんよりお借りしました。
文 / 咲京(2005.4.2)
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